2017/09/16.Sat

仙人掌 (不染鉄展覧会と万古焼豆皿)

仙人掌とは、サボテンを指すのだそうだ。

帝展出品作だけあって、とても大きな画。
二階建ての民家の前に庭が拡がる。
白いペンキを塗った平べったい温室(園芸店であった私の祖父の
ところにもあって、それはフレームと呼ばれていた)に、
所狭しといろいろの姿かたちをした多肉、サボテンが並んでいる。
フレームの周りにもいろいろの草花がある。
朝顔の鉢もあるし、実が成っているのはどうやらイチジクのようである。
季節は晩夏であろうか。

不染鉄の戦前(昭和8年)の帝展入選作品が、奈良県内でみつかったそうである。
東京ステーションギャラリーのときには「海村」がみつかった。
それを楽しみに奈良県立美術館に行くと、「仙人掌」が展示されていたのだった。
大きな画面に、サボテンが沢山、ひとつひとつこまごまと違いが描き分けられている。
きっと、ほんとうにそういう姿のものを育てていたのだろう。
そういえば、ちょっとした水辺の風景でも、葦であったり沢潟であったり、
不染鉄の絵は、ちゃんと対象を捉えて描いてある。
(写実などというより、「あぁ、そこに沢潟が生えている」と彼が思ったそのままが
描かれてあるといった具合だ。)
サボテンの画には小さな字で、市でサボテンを見かけるとひとつずつ買ってきて、
温室にペンキを塗り、冬は防寒したりしながら丹精したことが描かれている。
絵に文章を描き込むのは彼の癖だが、絵巻物やら画賛など、
日本画として寧ろ正統的なことなのかもしれない。
でも、ちまちまとした丸字で帝展作品に描き込んでしまうというのは、やっぱり不思議である。

それにしても美しい画だ。
たくさんの小さなサボテンの緑青が目に沁みる。
世の中の画には、このように描けば美しい、というような
決まりごとが凡そあり、この画はそれに属しているわけでもないというのに、
サボテンのひとつひとつに毎日彼が満ち足りた気持ちを抱いたであろうことが、
画を見る私に伝わってくる。
緑青の同じ色でひたすらいろいろの草花を並べて、
目に映る緑がどれほど美しいかを言いたかったのだろうか。
(その後に戦争の時代がやってきて、このような暮らしが
破壊されたであろうことなど想像ができないほどだ。)
この画から伝わってくる、彼のサボテンへの細やかでマニアックな心の動きは、
何か彼の画の秘密を物語っているように思う。
そうして、ひとつひとつのサボテンを描き切る彼の画力も密かに見逃せない。
鍛錬のない画家は画家とは呼べない。でも計算とテクニックがどれだけ凄くても
それだけでは画家にはなれない。(というのは、自分の考えであるけれども。)
自分がこころを動かされたものを見える形にするために技術はあるのだもの。
私は今回の展覧会で、ようやっと彼の姿の一部が見えた気がする。
納得するまで、あるいは心を動かされる都度、同じ主題を描いている。
でも心が動いているから、それらはひとつとして同じものではない。
そして、それらを表現するために実は過去の自分のテクニックには拘らない。
私が思っていたよりも不染鉄という画家はずっと革新的なのであった。
(不染鉄のことをヘタウマの系列で捉える人も居ない訳ではないようだれど、
私の実感は違う。また、素朴と捉える向きもあるようだけれど、それも違う。)

先日、奈良県立美術館の松川綾子学芸員の解説を聞き、
そういった彼の姿をおぼろげながらに捉えることができたのは、
氏の丁寧な仕事に拠るところが大きいことを知った。
不染鉄とは?という問いを日々投げかけながらの仕事であったのだろう。

また、主催の産経新聞社の方は、偶然21年前の奈良での展覧会を見て、
いつか不染鉄の展覧会をやりたい、そう思ってきたそうである。
この展覧会はそういった不染鉄を愛した方々の熱意があって実現したのであった。
東京では2万8千人の動員であったという。
故郷東京では、展覧会開催時には無名に等しくなっていたのだから、
この数は、真に彼の画を見たいと思った人の数なのだ。
奈良の地へもこのような人たちが足を運んでくれることを願っている。
(東京で観た皆さまも、仙人掌を観に、是非秋の奈良へとお越しください。)

「没後40年 幻の画家 不染鉄」展
2017年9月9日(土)~11月5日(日) 奈良県立美術館

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さて、いつものように画がないので、ふるもの画像をアップする。
見た途端に美しい色に魅入られた。

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珉平にはないようなお色だな、と思うと万古焼なのだそうである。
この色にはどうしても引っかかって、それはなんだろうと
思っていたのだけれど、仙人掌の画を見て思い出した。
ああ、これって美しい緑青のお色、描かれているサボテンと同じ色。

IMG_2878.jpg

そうして、何を思い出そうとしていたのかようやく気付いた、
ああ、あの不染鉄の図録の表紙、あれって緑青色だったんだ!!
(図録はしっかりゲットした。印刷ではどうしても彼の画の繊細な表現は
伝わらないとはいえ、解説も豊富な貴重な資料である。)

IMG_2880.jpg
(長径:6.8cm)

おまけ、胡桃と干葡萄のパンも焼いてみた♪
(このところ恐ろしく仕事漬けであるが、美味しいパンはちょっとした
息抜きをもたらしてくれる。)
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