2010/12/02.Thu

輪廻(ハインリッヒ・フォーゲラー 『春のメルヒェン』)

こんなことを・・・とは思うのだけれど、やはり書き留めておこうと
1年経って思ったこと。。。

絵には、画家が描きたかったことが描いてある、に違いないのだけれど、
よく言われるように、画家の手を離れた絵にはそのものの命というようなものがあり、
絵を受け取った人の人生の1シーンと小さな火花を散らしながら交錯するときがある。
そのとき受け取ったメッセージが、果たして画家が意図したものであるのか、
そういうことは重要なことなのだろうか。
フォーゲラーを見ながら、それは彼が言いたかったことでもあるようだし、
そうではなかったのかもしれない、そんな風に逡巡する。
でも何であれ、何かを求めている人というのは、何かを求めて描かれた絵から
何かを受け取るわけで、そういう時、それが絵のテーマに直接関わるかどうかは
あまり重要なことではないのかもしれない。

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フォーゲラーのこの絵を最初に見たときはまだ、何かが自分の人生に触れた、
とは感じなかった。
私の良く知っている北方の春を実によく、丹念に描いていて、あの湿った枯れ草の
匂いの混じった冷たい春の空気を思い出した。
周囲に描かれた猫柳や一輪草の仲間は、北方の人の密やかな春への思いそのもののようだった。
「この人はそういうところで暮らしていたのだろうな。」そう思った。
(実際彼は、北方ドイツ・ヴォルプスヴェーデの芸術村で理想に燃えて暮らしていたと後で知る。)
次に見たとき、まじまじと見つめた。
ボッティチェッリのプリマヴェーラの北方版、と思える春の女神は
産毛を纏った木の芽のように繊細に描かれていて、美しかった。
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そうして立ち去ろうとしたとき、向って左下の小さなニンフ?がじっとこちらを
見つめていた。
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いや、勿論見つめている絵なのだけれど、何か、私の人生でも見つめられているような
へんな気がした。
「どうしてこの絵は、フローラと小さな2人のニンフ、3人なのだろう?」
ふとそんな考えが浮かんだ。
普段どちらかというとロマンティックなものは手にしないので、
このユーゲントシュティール(青春)様式のものを買うという決心はつきかねたのだけれど、
夕日の差し込む自分の部屋で、ぼんやりオペラのアリアを聴いていた時に、
ふと突然「あの眼差しはなんだったか、手に入れて確かめないといけない」そう強く思った。

絵を手に入れて眺めていたけれど、私はニンフに何を見つめられたのか、
そうして彼女達はどうして3人なのか、その答えが浮かばずにいるうちに、
11月、父が他界した。
危篤の知らせで実家に帰る途中、景色は秋は過ぎ、雪さえもまだ降らない枯れ木と
枯れ草だけの初冬、どんどんと陽射しが弱まっていく、本当の死の季節だった。
どういうわけか、あの版画の芽吹く前の春の雑木林と、そういう葉を落としたばかりの
死んだように眠る故郷の木々が重なってしようがなく、その時にあのニンフの目が
こういうことを見つめていたのだという気がした。
父は後に残る者に悔いを残させず、よい記憶と静かな暮らしを残して逝ったので、
葬儀は粛々と行われた。
ぼんやりと祭壇を眺めていた私は、小さなささやかな来迎図に眼が留まり、
銅鑼の音を聞いたときに、はっとした。確かに今父は旅立ったと・・・。

家に帰ってフォーゲラーを見た瞬間、「ああ、この3人というのは、
来迎図の三尊と同じだな・・・小さなニンフは脇侍だったのか。」そう思った。
春の到来を描いた絵を来迎図というのはおかしなことなのだけれど、
フォーゲラーが「メルヒェン」と云ったのは、キリスト教以前の古い信仰ではないのかしら。
それは輪廻する自然への慎まやかな信仰で、生は死であり、死は生である、
そういうことを描きたかったのかもしれない、と。
またいつか父と会うこともあろうかと、そう思うことで、また今日が始まる。

この版画は、フォーゲラーが赤化してユーゲントシュティール様式を捨てる前の最後の頃で、
その頃のフォーゲラーというのは、芸術村での理想にも陰りが見え、その理想の
象徴だった妻とも不仲となり、また、20世紀初頭の新しい美術運動からも
取り残されつつあり、決して幸せな時期ではなかったという。
一世を風靡した自分のロマンティックな様式に悩んでいたというけれど、
だからこそ、この絵には真実があるように思う。その様式が真実を語っているように思う。

blog 6485
<1912年 銅版画>
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